研究概要 |
金属表面が誘起する不斉は極微小であることが予想される。したがって,極微小不斉を増幅するプロセスが不可欠である。本年度は,極微小不斉が不斉自己触媒反応により自己増殖しながら著しく向上する反応の確立を目指して検討を行った。その結果,約0.00005%eeの(S)-2-(第3ブチル)ピリミジルアルカノールを不斉自己触媒として用いて,ピリミジンカルバルデヒドとジイソプロピル亜鉛を作用させると,鏡像体過剰率が向上した(S)-2-(第3ブチル)ピリミジルアルカノールが得られた。さらに生成物を次の反応の不斉自己触媒としてもちいる操作を2回行ったところ,(S)-2-(第3ブチル)ピリミジルアルカノールは99.5%ee以上に向上した。この間,S体は約63万倍に増殖したのに対し,R体は2千倍以下である。一方,約0.00005%eeの(R)-ピリミジルアルカノールを不斉自己触媒として用いて反応を行ったところ,同様に99.5%ee以上の(R)-ピリミジルアルカノールが生成することを明らかにした。 つぎに,金属表面での不斉誘起の予備実験としてヘリカル構造を持つシリカを不斉開始剤として用い,ピリミジンカルバルデヒドとジイソプロピル亜鉛の反応を行ったところ,右巻きシリカと左巻きシリカとで逆の絶対配置を持つピリミジルアルカノールが,それぞれ高い鏡像体過剰率で生成することを見出した。これらの研究実績に基づき,ピリミジンカルバルデヒドとジイソプロピル亜鉛の反応を金属表面を不斉開始場(剤)として,不斉誘起の条件を検討する。
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