研究概要 |
本研究は,クラスIIに属する混合原子価状態について,二つの混合原子価中心間の電子的カップリング定数(H_<AB>)を熱力学的な実験データから評価する新しい手法を開拓することを目的とする.本研究目的を遂行するには,対象化合物として,適当な赤外吸収を示す官能基を有するクラスIIに属する非対称形の混合原子価錯体を選ぶ必要がある.この要請を満たす[{(OAc)_6(CO)(L) Ru_3}-pyz-{Ru_3(L')(CO)(OAc)_6}]型の3種類の錯体,(L,L')=(dmap,py),(py,cpy),(dmap,cpy)を合成し,サイクリックボルタンメトリーなど電気化学的手法による酸化還元電位の測定,および,各酸化状態におけるカルボニル伸縮振動赤外吸収線形解析を行った.この一連の錯体のそれぞれは,一電子還元により本研究の目的・計画にあう混合原子価状態を与えることが明らかとなった.現在,それぞれの系についてadiabaticおよびnon-adiabaicなポテンシャルエネルギー差ΔG',Δを求める作業が進行中である。なお,これらの系について,従来法によるH_<AB>の評価,すなわち,原子価間電子遷移(Inter-Valence Transition Band)を測定しその吸収帯の形状解析からH_<AB>を評価する研究も行っている.現在実験がほぼ終了し,データ解析を開始する準備が整った状況にある.
|