本研究では申請者が発見したアルキル鎖の炭素数が偶数の場合と奇数の場合で色が異なる[Ni(dmit)_2]錯体系について、この偶奇性が発現する機構を分子論的に解明することを目的とした。特にこの系は発色団である錯体自体の分子構造は変わらず、対カチオンとして組み合わせる無色のアルキルアンモニウム塩の鎖長が偶数であるか奇数であるかで、それぞれ桃色と緑色の間で変化する性質を持っていることから結晶中の分子配置を解析し、錯体分子の分子会合構造を解明することを主眼に実験を行った。 まず、従来行ってきた単結晶育成法(濃縮法、徐冷法)では単結晶を得るのが困難であったが、反応法(拡散法)の条件を検討することにより、この系で容易に多種類の単結晶を得る方法を確立した。この手法は、他の系でも十分に応用できる優れたものである。結晶構造解析の結果、アルキル鎖長n=1〜18までの錯体について構造を決定することに成功した。このようなシリーズがすべて解析された例としては初めてのものである。n=8のみが単斜晶系、他は三斜晶系であった。この違いは、n=8のカチオン分子が、[Ni(dmit)_2]^<2->と同程度の長さであることに起因している。また、アルキル鎖の長さに因らず、カチオンのアルキル鎖がアニオン錯体の長軸と平行に伸びる形で錯アニオンの上下に存在していた。結晶構造を詳細に検討したが、吸収スペクトルに大きく影響する[Ni(dmit)_2]^<2->アニオンの硫黄原子間の相互作用には大きな変化が見られなかった。しかし、Niと電荷を持つNの距離が最大吸収波長とよい相関を示すことが分かった。成果については、錯体化学討論会で一部発表し、本年7月の国際会議(メキシコ)にて最終的な報告の予定である。
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