平成15年度は、有機カチオンをプロトン付加したトラネキサム酸に絞り、Sn-I系のペロブスカイト層が1〜3層の層状ペロブスカイトについて、構造・導電性の関連を調べた。単純な直鎖アンモニウムと比べ、このカチオンでは層の数の制御が容易で、空気中及び温度変化に対する安定性に優れた結晶が得られ、それらの構造解析に成功した。また、電気伝導度は層の厚みに比例して増加し、3層の化合物では50K付近まで金属的な挙動が観測された。この層の厚みとの相関をより詳しく調べるために、層の厚みが無限大である母体のペロブスカイトについても調べた。通常の結晶成長では小さなものしか得られないが、γ-aminobutiric acidを添加することで一方向に長く成長した結晶ができることを見出し、単結晶を用いた構造・物性研究が初めて行えるようになったことは本研究の重要な成果である。電気伝導度の温度変化を測定したところ、280K付近と110K付近で不連続な飛びが見られ、相転移が起こることが示されたが、電気物性は転移前後で金属的なままであり、5Kまで金属性が維持されることが分かった。室温相は立方晶ペロブスカイトで、最初の転移で正方晶に変化することを明らかにしたが、最低温での相の構造を現在調べている。熱電能ではホール伝導であることが示され、また、その値からキャリア濃度が希薄であることが示唆された。これらの測定結果を先の1〜3層の層状ペロブスカイトの結果と比較すると、層の厚みに伴う物性の変化が連続的であることが分かり、母体のペロブスカイト化合物の電子構造を調べることで層状ペロブスカイトの電子構造を探ることができることが明らかになった。また、前年度に示唆された不純物準位との関連も調べられることから、高伝導性へと変換するドーピングの道も開けると考えている。
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