光学活性分子を高効率的に不斉合成しようとするキラルテクノロジーはまさに成熟の域に達しようとしている。その中心的な役割を担うのが不斉金属錯体であり、それを如何に開発するかがこれまでの最大の関心事であったと言える。こうした不斉金属錯体の調製法に焦点をあてると、そのほとんどは光学活性な不斉配位子とアキラルな金属錯体によって構築するという画一的な手法がいまだにとられている。その結果、不斉触媒反応を指向した不斉金属錯体の開発研究は新規な不斉配位子の設計が最大の関心事となっている。不斉触媒反応に果たす不斉金属錯体の重要性にもかかわらず、触媒機能を備えた不斉金属錯体そのものの不斉合成に着目した研究はほとんどなされていない。本申請研究はこうした従来法に一石を投ずるべく、不斉触媒として機能しうる不斉金属錯体それ自体を触媒量の光学活性分子によって不斉合成することを目的とした。本年度は不斉金属錯体の触媒的不斉合成に適した系の探索を検討した。本研究では光学活性な配位子を金属錯体に導入するという従来法を適用することはできない。従って、金属とアキラルな配位子が錯体形成する際にchirality (central chiralityやplanar chirality)を生じる場合、あるいは異性化により光学活性な錯体へと変換する場合などが候補として考えられた。本年度はあらかじめ錯形成したσ対称性の錯体を不斉触媒反応によって非対称な錯体へと誘導し不斉金属錯体とする系を探索した。ジチオエーテルを銅錯体とした後に、不斉触媒的な酸化反応を行い、チオエーテル部のスルフィドをスルホキシドへと不斉酸化反応を行なった。現在のところ不斉の誘起は不十分であるが、σ対称性の錯体を不斉酸化による非対称化が可能であることを見出している。
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