テトラヒドロフラニル(THF)基やテトラヒドロピラニル(THP)基は、水酸基の保護基として合成に広く利用されている。しかし、これらの保護基はその導入に酸触媒を必要とするのみならず、その生成に際して新たな不斉炭素が生じるために、光学活性なアルコールの保護では1対のジアステレオマー混合物が生成する。それ故、これらのアセタール保護基を真に有効なものとするためには、より中性な条件下で立体選択的アセタール化の方法を確立することが必要である。このためには、反応溶液中で必要に応じて活性化されアセタール触媒として働くことのできるキラルな中性錯体の設計が求められる。今回、光照射下でのみアピカル位のニトロシル基を解離してルイス酸性を示す光学活性なサレンルテニウム錯体を触媒に用いてアセタール化の検討を行い、種々のアルコールやフェノールが温和な条件下良好なエナンチオ選択性(70%ee〜80%ee)でTHF化されることを見出した。この結果は、エナンチオ選択的アセタール保護基導入の最初の例である。また、生成したTHFエーテルを本反応条件にさらしても光学純度の変化が見られないことを確認し、本反応の立体化学は速度論的に支配されていることを明らかにした。このことは、本反応が極めて中性に近い条件で進行していることを示している。一方、天然有機化合物などの合成では光学活性なアルコールを保護する場合が多い。そこでは、触媒のキラリティーと同時に基質のキラリティーによる立体制御が期待される。そこでキラルな2級アルコールについて検討したところ、双方のキラリティーによる不斉誘導が相乗的に働く(マッチする)場合には90%de以上の高選択性が観測されることが明らかとなった。これらの知見は、THF化に限られるものの、天然物合成などにおける水酸基の保護に新たな方法論を提供するものであり、本研究の所期の目的を達成することができたものと考えている。
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