研究概要 |
今年度は、重水素イオンの分離・精製に対する最適な両性イオン交換体の開発を行った。物理修飾、化学結合又は既存の人工生体膜の利用などを視野に入れ、最も分離能の高い且つ安価な固定相(ゲル状、膜状繊維状なども含め)の開発を試みた。H^+とD^+のモル比が極めて低いことに起因するH^+とD^+の不完全分離といった問題に遭遇した。重水素は安定同位体であり、天然には普通の水素の約1/7000くらい存在する。工業用の濃硫酸又は濃塩酸から重水素イオンを分離する場合、H^+とD^+のモル比がこの数字と近く,約1/10000程度と考えられている。重水素イオンを分取する目的から見れば、なるべく大量の試料(酸)を分離カラムに注入するほうが望ましいが、H^+とD^+を完全に分離するには、分離カラムに余裕を与えなければならない。分離カラムの交換容量を計測・制御しつつ、最適な分離・分取り条件を見出すことにより、この問題点は解決を試みた。本研究の最終の目的、つまり、普通の濃酸から重水素イオンを分取するには、安定性の高い、且つ交換容量が高い充填材の開発が求められている。適切な単体に化学合成法でリン酸基と四級アミン基を創出することも視野に入れるが、既に、別の用途・目的で開発されている人工細胞膜を、固定相又D^+の選択膜として使用する方が本技術の開発時間の短縮が可能と考えられる。リン脂質極性基を有するポリマーの製造技術は、科学技術振興事業団による委託開発制度の平成5年度の研究課題として、5年間かけて開発した新しいバイオ材料である。この材料は、TDPCと全く同じ官能基、つまり、リン酸基と四級アミン基を持っているため、H^+からD^+を分離することができるものと推定している。このような人工細胞膜を固定相とする新規な分離システムの開発及びその分離機構・能力について研究する。 重水素は、核融合エネルギーの開発に欠かせない原料物質である。また、その酸化物、即ち、重水は、原子炉の減速材として実際に使われている。重水素又は重水を低コストで且つ大量に生産することができる工業スケールの分離・製造プロセスに発展させるのを、本研究プロジェクトの最終の目標としている。
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