重水素イオン及び水素イオンを、両性イオンを固定相、脱イオン水を移動相として用いた高速液体クロマトグラフィーによって分離されたことが実験的に確認された。この研究成果は、申請者が目指している「重水の分離と精製」に直接に結びつく研究成果である。固定相としては、下記の三種類の両性イオン固定相、即ち、四級アンモニウム塩基/リン酸基タイプの固定相、四級アンモニウム塩基/スルホン酸基タイプの固定相、並びに、四級アンモニウム塩基/カルボキシル基タイプの固定相を用いて、実験した。その結果、四級アンモニウム塩基/リン酸基タイプの固定相、つまり、生体膜を構成する脂質であるホスファチジルコリン(レシチン)タイプの両性イオン固定相のみは、水素イオン及び重水素イオンを認識・分離することが分かった。水素イオン及び重水素イオンは、共に、ボスファチジルコリン(PC)と結合する。しかしながら、重水素イオン/ホスファチジルコリンの安定性は、水素イオン/ホスファチジルコリンの安定性より高い。その結果、重水素イオンは、水素イオンより遅く溶出され、水素イオンから分離されることになる。移動相としては、脱イオン水以外に、電解質水溶液、例えば、塩化ナトリウムや、塩化リチウム水溶液を用いても、分離が確認された。加えて、本研究成果は、「pHメーターの精度が低い」といった分析化学の基本問題の解決にも貢献する。 重水素イオンを分取するといった観点から見た実験では、つまり、通常の酸から重水素イオンを取り出すことを試みた場合、重水素イオンの含有量が極めて低いため、水素イオンのピークのみが観察された。全く異なる固定相を合成し、より効率の高い分離システムの構築を目標にして、これからも研究を続けたいと考えている。
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