陸上に点在する湖沼の多くには、他の湖沼と水路などによる接続がないにも関わらず多くの共通した種を含む微細藻類群集が出現する。湖沼の微細藻類群集の間には何らかの交流が存在すると考えられる。特定種の個体群の遺伝子構成を湖沼毎に調べ湖沼間の個体群で比較することで、その類似度から交流の頻度や地理的距離と交流の関係を明らかにすることを試みている。このためには数細胞からなる微細藻類各個体のDNA塩基配列を決定することが必要である。同定が容易で様々な湖沼に出現するAsteriionella formosaを対象に選び、個体群識別に有用なrDNA周辺領域の解析を行い、さらに各個体からのDNA塩基配列の決定法を検討した。本年度は、まず滋賀県琵琶湖、長野県諏訪湖、神奈川県震生湖など広い範囲の様々な湖で同種の出現を確認した。次に神奈川県震生湖より単離した個体を培養し、フェノール法で精製した全DNAを用いてrDNA周辺領域のr18、r5.8、r28を決定した。これらの領域は既に登録済みの中心目珪藻類の塩基配列とも85%以上の高い相同性を示した。さらにrRNAをコードしていないits1、its2の塩基配列も決定した。この結果に基づきprimerを設計し、A. formosa個体(4細胞)からits1、its2領域をPCRで増幅し塩基配列を決定する条件を決定した。DNA抽出は岩谷らによるキレート剤を用いた抽出法を利用し二次PCRを行うことで、安定した各個体のits1、its2領域の塩基配列の決定が可能になった。
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