研究概要 |
陸上植物における螺旋形精子形成機構を解析するためにシダ植物カニクサの精子形成変異株を用いて鞭毛装置を単離し、次いで、鞭毛装置特異的タンパク質を同定するために、単離した鞭毛装置に対するモノクローナル抗体を作製し、鞭毛装置特異的タンパク質の同定とその造精器、精子細胞内での分布を間接蛍光抗体法、免疫電子顕微鏡法などにより解析した。単離鞭毛装置は多数の鞭毛軸糸や基底小体、スプラインの主成分であるチューブリンを主として多数のタンパク質から構成されているが、その中からチューブリン以外のタンパク質である分子量42、41,43KDの鞭毛装置特異的タンパク質に対するモノクローナル抗体を作製し精子における分布を調べた。これらのタンパク質はいずれも精子の螺旋に沿って分布しそれ以外の場所には認められなかった。免疫電子顕微鏡法でさらに詳細に調べると42KDのタンパク質は多層構造体の最上層であるS1層の上に分布する電子密度の高い領域オスミオフィリッククレストに、41、43KDのタンパク質はスプライン上で基底小体の周囲を覆っているエンベッディングマテアリアルに分布した。さらに精子形成過程についてこれらのタンパク質の挙動を間接蛍光抗体法で解析したところ、42KDのタンパク質は精細胞が形成されると細胞質全体に出現したが、やがてスプラインが伸長し螺旋形成が始まる頃に、鞭毛装置先端部にあるオスミオフィリッククレストが形成される場所に出現した。そして、螺旋形の形成と共に螺旋に沿って分布するようになった。これに対して、41、43KDのタンパク質は、精子完成直前に、鞭毛装置に付属する電子密度の高い物質が凝縮した後に出現し、それ以前には認められなかった。このように3種の鞭毛装置特異的なタンパク質の挙動はそれぞれ異なっており、鞭毛装置が形成される過程が非常に複雑であることを反映しているように考えられる。
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