研究概要 |
生物対流現象の空間およびその時間発展を評価する目的で,本研究では空間情報を一定の時系列で表示することを試みた.記録画像のスタックから同一部分を直線状に切り出したものを時系列の順に並べゆき,空間軸と,時間軸とを併せ持つひとつの画像(時空間プロット)を作り,パターンの時空間挙動を調べた.実験にはTetrahymena thermophilaの野生株と後退遊泳ができない行動突然変異株(TNR),および異種のTetrahymena pyriformisの3種の株を用いたところ,これらの細胞株では,それぞれに特異的なパターン形成が行われることがわかった.T. thermophilaの野生株はポリゴン状のパターンを形成した.T. pyriformisもポリゴン状であったが,その大きさはT. thermophilaの野生株の場合の約半分であった.一方,TNRの作るパターンはドット状で,ドットから伸びた分枝が現れたり消えたりを繰り返していた.各々の細胞株について,時空間プロットを作り,パターンの安定性を比較すると,T.thermophilaの野生株とT. pyriformisのパターンでは安定性が高く,TNRではパターンが周期的に揺らいでいることがわかった.さらに,時空間プロットの2次元FFT解析より,揺らぎはほぼ一定の周期で起こることがわかった.TNRのパターン形成に見られる周期性を手がかりにして,異なる細胞株が共存する場合のパターン形成を調べたところ,TNRのパターンの揺らぎ周波数は,密度の低下とともに減少した.しかし,TNRの減少分を,他の株の細胞で補ったところ,T. thermophilaの野生株とT. pyriformisのどちらを用いても周波数の減少は起こらなかった.TNRに見られる揺らぎ周波数の密度依存性は,生物対流パターンの形成には細胞間の相互作用が必須であることを示している.
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