研究概要 |
今年度は,日本国内における海生間隙性貝形虫類の一次データを蓄積することを手始めとした.日本の北部,中部,南部の代表的な地域としてそれぞれ北海道・釧路,静岡県・下田,沖縄県・瀬底を選定して間隙性貝形虫類の採集を行った.それぞれの地域で堆積物粒子の比較的粗い砂浜を選定し(沖縄はサンゴ礁),汀線から陸側にかけて2-3mおきに地下水面が現れるまで掘削して堆積物を採集した.採集された堆積物より,「洗い出し法」によってメイオベントスが抽出された. 主なメイオベントスとして,貝形虫類の他,甲殻類では橈脚類,等脚類がみられ,甲殻類以外では線虫類,クマムシ類,渦ムシ類がみられた.貝形虫類の種多様性は,沖縄県・瀬底で圧倒的に高く,16種を数えた.また1種を除いてすべて未記載種であり,この中には新属となるものも含まれている.すべての地域において,未記載種の記載が急がれる. また,間隙性貝形虫類は砂中間隙を異動するため,表在性貝形虫類とは異なった生活様式をもつことが考えられる.特にロコモーションに着目すると,最後部の付属肢が異常に長い分類群が見出された.これは,この付属肢を180度反転させ,体の最前部まで伸張させ(第1触角より前に),堆積物粒子(砂粒)を掻き分けるのに使用されている.また別のある分類群では,背甲前縁部に鋸歯状の突起がみられるが,これは背甲をすばやく動かして,やはり堆積物粒子を掻き分けることに利用している.砂中間隙という特殊な生活環境が,少なくとも形態レベルでは様々な特異性を生み出している.生態的な特異性についても着目して行きたい.
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