研究概要 |
本研究では,量子伝導状態のカーボンナノチューブ(CNT)に,電気特性の未知なDNA等の生体分子を付着させた際に生じる量子伝導変化を探知する様子を調べることで,新しいセンサーとしての利用を試みることを目的としている.そのため初年度としては以下の基礎実験を中心に研究を行った. 1.CNT電極の作製 DNA等の極微生体分子におけるコヒーレントな量子伝導効果を探知するためには生体分子の長さ以下のギャップ長をもつ2端子電極の作製が不可欠となる.従来,このような分野における電極作製には電子線リソグラフィーによる微小金属電極が用いられてきたが,我々は精密アライメント紫外線露光システムによって電極を取り付けたCNTに対して収束イオンビーム加工装置によって切断することにより50nmのギャップ長のCNT電極作製に成功した. 2.CNTと金属電極との接触抵抗の低減 生体分子を付加した際の量子伝導変化を観測するためには,CNTと金属電極との良好な接触特性が必要となるが,通常CNTを金属電極上に乗せただけでは表面の汚染層や酸化膜によりショットキー的なバリアができてしまい,オーミック接触をとることが困難である.そこで電極材料としてチタンを用い,CNTとの良好な電気的接触を実施した後に,Ar・H_2混合ガス雰囲気中で700℃・1分間の高速熱アニールを行い,2端子電気抵抗の1桁以上の低減に成功した. 3.DNAを付加したCNTの基礎伝導特性の評価 まず,FIB加工しないCNT電極に対してDNAを付加した際の電流・電圧(I-V)特性を調べたところ,付加することにより一桁以上の電流値の上昇が見られた.これにより,DNAの付加によりCNTの電荷輸送特性が十分に影響を受けることが確認された.また,FIB加工によりギャップを作製したCNT電極にDNAを付加したところ,金属電極では通常非線形になるI-V特性が線形になることがわかった.今後は量子伝導に重点を置き,低温磁気伝導特性を調べていく予定である.
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