我々はCu:TCNQの蒸着比率を制御することによりアモルファス状の薄膜を形成できること、そしてITO/Al/Cu:TCNQ/Al素子構造において再現性のあるswitching特性の発現に成功した。このスイッチング現象はITO上に形成された酸化アルミとAl陰極でしか発現しないことから、作動メカニズムにAl_2O_3/Cu:TCNQとCu:TCNQ/Alの両界面が関与していることを明らかにした。本研究では、さらにメカニズム解明のために、三元蒸着によりAl:Cu:TCNQの多元錯体薄膜の形成を行い、OLEDの陰極として一般的なMgAgを用いてITO/Al_2O_3/Al:Cu:TCNQ/MgAg素子を構築した。まず、Al:Cu:TCNQ薄膜を作製し、吸収スペクトルよる電荷移動錯体の確認をした。Al:Cu:TCNQの組成比(atom:atom:mol)は、1:1:1、1:1:2について検討した。Cu:TCNQ錯体薄膜と同様に、600nm-1200nmに新たな吸収帯が観測された。さらに、IRスペクトルからTCNQ単独より、低波数側にシフトした。この結果から、Al:Cu:TCNQ薄膜は電荷移動錯体を形成していることが確認できた。次に、Al:Cu:TCNQ錯体薄膜を用いてITO/Al_2O_3/Al:Cu:TCNQ/MgAg/Agを作製し、電流-電圧特性を測定した。しかしながら、Al:Cu:TCNQ(1:1:1、1:1:2)錯体薄膜を有するITO/Al_2O_3/Al:Cu:TCNQ/MgAg/Ag素子においてはスイッチング現象は発現されなかった。今後、さらに組成比の調整や界面での電極材料の拡散状態や酸化状態の検討を行う。また、他のスイッチングデバイスについても検討を行い、有機層中に金属を分散した系において類似なスイッチング現象を見出した。
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