高出力半導体レーザは、外部からの要因、たとえば外部光注入や電流変調などがなくても、それ自身不安定な発振となるレーザデバイスであり、ピコ秒程度での時間変動をするフィラメンテイションなどカオス的な光出力を持つレーザである。このことについての実験的検討あるいは、理論的な裏付けは乏しく、高出力半導体レーザ自身のダイナミクスを調べることが重要な研究課題でもある。本研究においては、高出力半導体レーザモデルのレート方程式を提案し、従来実験で断片的に知られていた高出力半導体レーザのパターンダイナミクスであるフィラメンテイションの構造や、レーザパラメータによるカオス分岐などの条件を理論的に明らかにした。また、この過程で、通常の狭ストライプ幅の端面発光半導体レーザ固有の現象として考えられていた低周波振動(Low Frequency Fluctuation ; LFF)が、高出力半導体レーザにおいても発生することが、実験的にはじめて確かめられた。 単体の高出力半導体レーザのコヒーレンスやビームプロファイルの整形のために、光注入によるレーザ制御などの方法が望まれる。本研究においては、レーザ自身の戻り光によって高出力半導体レーザを安定化することを試みた。通常、戻り光によって半導体レーザは一般に不安定化するが、そのような不安定状況下において、カオス的振動が全くの安定状態にジャンプするいわゆるカオスアトラクタの、共存状態が存在することを実験的に示した。カオスアトラクタ共存については、理論的な解析はあるものの、実験的にも証明できたことの価値も大きい。このとき、レーザは縦多モード発振状態から単一モードへ遷移し、さらに空間モードもブロードエリア半導体レーザ特有の双峰性ピークを持つプロファイルから単峰性パターンへと安定化された。詳細な安定化の条件は今後の課題であるが、当初の目的である高出力ブロードエリア半導体レーザのビーム制御の目標は達成された。現在、この結果はPhysical Review Eに投稿中である。
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