研究概要 |
電気的に中性な金属を1μm程度の距離まで接近させた場合,真空の揺らぎから力が生じる.この様な力はCasimir力と呼ばれ,近年その精密測定が行われるようになった.本研究は,この力をマイクロメカニズに応用しようとするものである.研究実績を実験と理論に分けて報告する. (1)実験に関する実績 本研究はCasimir力の精密測定を目的にしたものではないが,マイクロメカニズムの設計において,Casimir力の性質および他の外乱要素について予め知っておく必要がある.そこで,過去の実験を参考に測定装置を製作した.測定原理はAFMと同じであるが,精度を向上させる為にカンチレバー先端に直径200μmの球を接着している.その変位をレーザ変位計で測定することにより1μmのギャップで10pNの力を測定することができた.また,リソグラフエッチング技術を用いた全く新しいタイプのカンチレバーを作成した.このカンチレバーに作用する力は前述のものと比べて約1000倍大きくなっており感度向上が期待される. (2)理論に関する実績 [a]Casimir力の理論計算は,主に金属平板間の引力を対象としていたが,直方体の対面する壁に作用する力は絶対0度の場合以外は計算されていなかった.そこで,モード和法を用いて有限温度におけるCasimir力を計算し,温度により引力から斥力に転換することを見出した.これにより,将来Casimir力で作動する熱機関を製作できる可能性がある. [b]Casimir力を光で制御する方法として,半導体表面に光を照射し誘電率を変化させる方法がある.この場合,光の強度は表面から急激に変化するので誘電率も空間的に変化する.そこで,誘電率に不均質性がある物体に作用する力を計算した. [c]Casimir力の計算によく用いられるAbel-Planaの公式を拡張した.
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