まず、本研究に使用する装置に設置されていた反応ガス排気用のターボ分子ポンプが故障したので新品に交換し、電子ビーム励起原子層選択成長の実験が可能なように準備を整えた。以下のような条件で実験が可能になった。(1)電子銃フィラメントに損傷を与えない反応チャンバー内の圧力は3x10^<-7>Torr以下である。(2)電子ビームの最大加速電圧は10kVである。これを超えると異常放電が起こる。(3)電子ビーム電流が1.4x10^<-11>Aまで取れることが分かった。現時点では、電子ビームの収束が十分ではなく、数ミクロン直径までしか絞れていない。このため電流密度が小さく、十分な薄膜成長速度が得られていないと考えられる。この点については、今後さらに収束レンズ等の調整を十分に行い、ビーム径を0.1ミクロン以下に持っていく予定である。本年度は、以下のガスを用いて実験を行った。(1)CH_2F_2を用いた炭素膜の堆積、(2)(CH_3)_2AlHを用いたアルミニウム膜の堆積、(3)Si_2H_6を用いたシリコン膜の堆積。ガスの吸着を促進させるために、シリコン基板を液体窒素により冷却した。これらの実験では、まだ膜堆積の確証が得られていない。この原因として3通りの可能性がある。1つ目は電子ビーム電流密度が小さすぎ、十分な電子ビーム励起反応が生じていない。2つ目は、冷却によりガスが液化または固化して吸着しており、室温に戻す際に気化する際、堆積した膜が同時に除去されてしまう。3つ目の可能性は、超高真空装置ではあるが、微量に存在する水分が基板表面に吸着し、これにより2つ目の理由と同様に膜が剥離してしまう。平成15年度はこれらの問題を解決し、所期の目的である、電子ビーム励起原子層選択成長によるナノ構造を実現する予定である。
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