本研究では、生体の神経細胞の機能をできる限り忠実に再現した人工神経細胞デバイスの開発を目指した。そのために、神経生理学者の意見を参考にしながら、神経細胞の信号処理の特徴を具備したハードウエアの実現を試みた。実際に神経生理学研究者との討論を進めていく中で、神経細胞の出力は様々な発火パターンを示すことがわかり、中でもバースト発火が脳の高次情報処理に深く関わっていることが分かってきた。そこで、バースト発火を中心とした発火パターンの外部制御可能なデバイスの開発に注力した。本年度の成果は下記のとおりである。 (1)ホジキン・ハクスレー型の神経細胞モデルを模した電子回路において、発火パターンの外部からのパラメータ制御を試みた。電子回路シミュレータHspiceを用いて、設計した回路の動作を検証した。バースト発火周波数、バーストパルス数を外部より制御できることを明らかにした。(2)アナログ型ハードウエアの構造可変に関する検討を進めた。具体的には、入力と期待出力のデータペアを与えることにより、回路自身の自動設計を試みた。スイッチトキャパシタベースの書き換え可能LSIを用いて、GA(遺伝的アルゴリズム)による自動設計を試み、十分実用的な回路が実装できることを確認した。 (1)の結果は、現時点では工学的な見地から神経細胞モデルを一種のパターン発生器とみたものであるが、ベースは神経生理学的知見に基づくモデルなので可変したパラメータの生理学的根拠も見出せることも期待できる。現在、神経生理学研究者とともに生物学的な観点からの検討を引き続き行っている。本研究において、神経生理学に基づいたデバイス設計の足がかりを作ることができた。今後は、本研究で得られた成果を元に、神経生理学研究者とより密に連携を取りながら回路の改良を進め発展させていく。
|