研究概要 |
微分方程式の数値解法において差分法は言うまでもなく中心的な役割を果たしている.ここでの主要な関心は,どのような差分法をとったときに,元の微分方程式がよりよく近似されるかということにある.この際,差分方程式の性質により,さまざまな問題が生じ得ることが従来より指摘され,研究の対象となってきた.例えば数値的不安定性や,与えられた微分方程式の階数以上の次数の差分法を採用することによる無縁根の存在などはその一例である.しかしながら,これらの問題は比較的各差分スキームごとに議論されることが多く,その統一的な性質の解明は必ずしも十分になされて来たとは言い難い.一方,差分方程式はシステム制御理論の分野においても,さまざまな角度から研究されてきた.ことに注目されるべきことは,可制御性や可観測性の概念を中心とした構造的な性質である. 今年度は微分方程式の差分法の良否と出力方程式の関係を中心に研究した.その結果,不安定な特性根が可検出でない場合,数値不安定と呼ぶべき現象が発生することが数値実験によって確認できた.したがって数値不安定性は,通常の差分法では必ずしも明確にされていない出力方程式の定義の仕方に依存することを示しており,新しい知見である.しかしながら,数値不安定性とシステム論的不安定性の間には未だ理論的ギャップがあり,これらはさらに理論的考察を重ねなければならない問題を提供している.例えば差分スキームの収束と漸近応答の収束の問題などである.これらの関係は偏微分方程式の差分法においてこそ,その有用性が明らかとなるものと期待されるが,これらは次年度以降の課題である.
|