本年度は、3次元静弾性学における高速解法の比較検討として、まず、昨年度前段階として検討したLaplace方程式のツリー法と多重極法に関する研究結果について考察を加えた。昨年度の結果では、境界積分方程式法においては多重極法がツリー法より明らかに優勢である事が判明していたからである。検討の結果、天文学などではツリー法が有利であるという結論がほぼ定着しているが、境界積分方程式法では多重極モーメントや、局所展開係数の項数を多くとる事が必要であるため、このような結論の相違が見られるものと考えられた。そこで、本年度は多重極法による複雑な3次元静弾性学の問題の解析において、展開項数などのパラメータを変更する事が可能であるか検討した。この結果、機械工学などに現れる複雑な形状の物体(具体的には車のホイールのモデルを使用)の解析において、従来の多重極法において用いられてきた項数でさえも精度を保証するためには少な過ぎる事がわかった。この結果、「3次元静弾性問題の境界積分方程式解法においてはツリー法より多重極法が優位である」という結論が確定した。この結論を受けて、他の解法を追求するよりも、多重極法のさらなる高速化を図る方が有意義と考えられたので、3次元静弾性学における他の高速解法に関する検討の研究は方向修正を行ない、最近進展が著しい大型共有メモリ計算機における多重極法の並列化に関する研究を行なった。この結果、多重極法の上向きパスに僅かなアルゴリズム修正を加えるだけで、良好な並列化効率が得られる事がわかった。また、3次元動弾性学における高速解法の比較検討においては、従来時間方向の階層性がツリー法的に扱われていたのを改め、真に階層的な多重極コードを実現した。この結果、計算効率の向上を達成する事ができた。メモリに関しても扱う時間ステップ数が多くなると、新しい算法の方が有利となる事を確認した。ただし、従来扱えなかったような多ステップ問題がとけるようになると、解法の安定性が顕在化する事が判明し、この点の改善は今後の研究課題となった。
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