研究概要 |
河川に生息する生物に注目してダムの影響評価を試みた研究少ない.生物群集に与えるダムの影響が憶測の域をでない以上,これまでの決定静的な管理方法には限界があるといわれている.そこで本研究では,ダム下流域における珪藻群集の特徴を抽出し,その形成理由とダムの関係について考察を行なった. 調査対象は,徳島県を流れる2級河川勝浦川とした.勝浦川では,河口から約32km上流に多目的ダムが建設されており,約8km下流の勝浦発電所(棚野ダム)までバイパスされている.そのため正木ダムから棚野ダムまでの間は流量が少ない減水区間となっている. 以下に,本研究で得られた結果を要約して述べる. 1.ダムの上流およびダムからの距離が遠く,その影響を受けない地点では,平面付着型の珪藻が優占した群集を形成するのに対し,減水区間やダムからの距離が近い地点では,糸状,帯状付着型や移動型が比較的多く出現し,垂直方向に発達した群集構造が形成されていた.これらの群集構造と水質や物理条件との対応を検討したところ,特に河床材料との関連性が高く,粗粒化した地点ほど垂直的な付着構造を持つ種が多く出現していた. 2.現地実験では,減水区間のみで,糸状,帯状付着型の珪藻が他のものよりも16日程度遅れて発達し,珪藻群集が垂直方向に発達していく様子が確認された.また,実験期間中に生じた流量増加に対しては,個体密度が減少したものの,その後も種組成や生活型構成比に一定の変化は見られず,実験期間中に起きた規模の出水では群集構造に影響を与える要因ではないことが示された. 3.以上のことから,河床表層の砂利が礫面を洗う作用が珪藻群集に影響を及ぼし,ダムによって砂粒子の供給が抑制されると,その下流では垂直方向に発達した珪藻群集が形成されやすいことが示唆された.
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