本研究は、衰退しつつある地方都市の既成住宅街区の再生に向けて、検討すべき課題と可能性をあきらかにしようとするものである。本年度の研究実績は、第一に、札幌市の都心部から2-4km南西部の山麓に位置し、緑豊かで良好な環境を有する山鼻・伏見・円山地区の典型住宅街区を対象に、住宅地図や現況図のデータに基づく分析と、現地踏査による観察調査分析をおこない、この20年余間の空間変容の実態として、(1)社宅や邸宅などの大規模敷地の更新による高層マンション化の進行(6-8階建てから9-12階建て、さらには近年の13-15階建て)と、その誘発要因としての2つの法改正、すなわち都市計画法改正(1992年)による1996年3月の用途地域(12種類)の指定にともなう主要幹線道路沿いの容積率の200%から300%への増加-容積5割増し-、1997年6月の建築基準法改正にともなう容積率の算定基礎となる延べ面積への、共同住宅の共用部分(廊下、階段)床面積の不算入-容積約2割増し-、(2)200坪以下の小規模な土地の空地化・駐車場化の進行と更新の停滞、(3)低中層建物(2-5階建てのマンション、事務所ビル、店舗・事務所併用住宅)とそこに住み続ける地主の存在、があきらかになった。第二に、首都圏の密集住宅市街地再生の先駆的事例である上尾・仲町愛宕地区、東京・墨田区向島地区を対象に、既往文献資料の収集と現地踏査による観察調査・関係者へのヒアリング調査をおこなった。それに基づき札幌市の既成住宅街区との比較分析をおこなった結果、高層マンション化の現象は共通するが、札幌独自の問題点・課題および可能性として、(1)良好な既成住宅街区保全整備の考え方と方法の枠組みの検討と制度運用の問題(2)住み続ける地主の意味・役割の考察と、街区再生主体(小規模低層中密開発、空地更新、住民ネットワークのキーパーソン・コミュニティの維持等)としての可能性、の2点を明確化した。
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