本研究は、衰退しつつある地方都市の既成住宅街区の再生に向けて、検討すべき課題と可能性をあきらかにしようとするものである。平成16年度の研究実績は、第一に、5階建て以下の小規模低中層集合住宅が点在する札幌市の典型的な既成住宅街区3事例の現況と経年変化の調査をおこない、その物理的環境と社会的環境の各特性と問題点を分析した。その結果、(1)高層集合住宅の増加に伴う駐車空間の増加と庭などの非駐車空間の減少により街区の外部環境が変化したこと、(2)低中層集合住宅の多い街区ではゴミ捨て場の配置、駐車場の多機能性、隙間の活用などから、居住者間の繋がりが深いという特性が見られたが、一方、高層集合住宅の多い街区では清潔感はあるものの、居住者間の繋がりが希薄であることがわかった。第二に、国内の類似事例として、大阪圏の特徴的な小規模低中層集合住宅9事例をとりあげて調査をおこない、札幌の事例との比較分析をおこなった。その結果、(1)法定建蔽率および容積率を目一杯に使用していること、(2)そのことが空間の余地、デザインの余地を狭め、質の高い住環境形成のネックとなっていること、(3)近年では地価負担をより軽減するため公有地の定期借地の手法が増えていることが明らかになった。第三に、平成14、15年度および今年度の研究結果を総合的に検討して、札幌市の既成住宅街区再生に向けて、空地インフィル・小規模低層中密・住民ネットワーク型集合住宅の意義、可能性と限界を分析、考察し、今後のより有効な再生手法として具備すべき課題の検討をおこなった。今後は、(1)都市計画手法としての地区計画によるダウンゾーニング-具体的には法定容積率150%、(2)街区再生主体としての地主とNPOによる新しい住宅供給組織の協同体制、(3)小規模空地の更新を促進させるインセンティブ、の有効性と実現可能性の検討が必要である。
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