当初の研究計画に従い、2003年11月より12月にかけ、4週間、イタリア・ポンペイにおいて調査を実施した。調査対象は、ポンペイ北辺城壁の内、第10塔よりメルクリウスの塔東側まで、およびメルクリウス通りに面する石灰岩切石積み住宅のファサードである。城壁の構築技術がポンペイに特徴的な住宅のファサードを形成しているとの見通しから、詳細な実測調査を行った。城壁の立面図、および断面図作成し、城壁を構成する石材、特に切り石の規格を明らかにし、特に、外周壁、内周壁を一体的に調査することにより、お互いの位置関係(高度差、石材規格、傾き、方向など)を精密に把握し、住宅の切石積みファサードと比較検討する。ポンペイの城壁および塔に関する研究は、古くは1940年代のマイウーリのメルクリウスの塔周辺に関する報告、最近では第9塔に関するミラノ大学の報告などがあるが、ポンペイ城壁の構造、形成について決定的な仮説を得るまでには至っていない。ポンペイの城壁および塔を研究するにあたり、まず、基本的な情報として、城壁および塔の実測図面、とくにマイウーリが作成しなかった立面図について、最新の測量技術を用いて正確に実測することとした。昨年度、ヴェスヴィオ門周辺より実測調査を開始し第11塔付近まで実測調査を終えた。今回は、かつてマイウーリが発掘調査を行ったメルクリウスの塔周辺へ調査区画を移した。ここでは、マイウーリの調査報告と比較するため、精度の高い実測を行ったこと、また城壁、塔の保存状態が良好であり、高い城壁が残されているということから、当初はエルコラーノ門まで調査を予定していたが、第10塔よりメルクリウスの塔東側まで、全長にして300m程度の区間の外周、内周壁の調査となった。 この結果に基づいて、城壁の切石積み技術と住宅ファサードの切石積み技術が、同根であるのか異質のものなのかを検証する。現時点では、簡単な分析より、城壁の上層と下層で、切石の規格が異なることが判明しており住宅の実測結果とあわせて検討中である。
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