X線を極低角(〜0.1°)で、境面試料に入射すると全反射現象を起こすことは良く知られている。一方、薄膜(多層膜)に対して、白色X線を極低角で照射すると、ある特定のエネルギーのX線は、薄膜の上下の界面で多重に全反射を起こす場合がある。このため、そのエネルギーのX線は薄膜内を一種の共鳴状態を保ち伝搬する。これは、薄膜がX線の導波路的な役割を果たすために生じることである。我々は有機薄膜に対して、このX線導波路現象を観測した。 試料には、Siウエハー上に蒸着した銅フタロシアニン(CuPc)薄膜を用いた。水晶振動子モニターで計測した膜厚は50nmであった。白色X線源には、回転対陰極型(Moターゲット)のX線発生装置を用いた。検出器には、SiPINダイオードを用いた。入射角を0.167°とし、出射角を変えながら、薄膜の端面から出るX線の測定を行った。特に、出射角を0.000°で測定した時のX線スペクトルにおいては、9.5keVあたりにピークが観測された。これは、このエネルギーのX線が、TEOモードの導波路効果により、薄膜内を異常透過したことを示している。また、出射角0.055°、0.075°、0.090°において、それぞれ9.7keV、10.3keV、10.9keVのエネルギー値の異常透過X線も観測した。これは、TE1、TE2、TE3モードによるものである。このような、異常透過X線のスペクトルは薄膜の高次構造を反映しており、これらの結果から、薄膜構造を正確に決定できると考えている。
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