本研究では、従来のイオン結晶的な金属酸化物の概念とは異なる視点に立ち、共有結合主体のオキソメタレート基よりなる多元系金属酸化物を合成し、それらの結晶構造を解析するとともに、電気的・磁気的特性を明らかにすることを目的とする。 本年度は、オキソメタレート基を含む多元系金属酸化物を合成するのに必要な、アルカリ金属およびアルカリ土類金属の酸化物または超酸化物の合成を検討した。アルカリ金属のNaを酸素ガスと反応させたところ、230℃以下ではNa金属表面が酸化皮膜に覆われ、内部まで酸化反応が進行しなかった。230℃以上に加熱すると、急激に反応が進行し、反応熱のため、試料を入れたNiボートも溶融し反応した。このため、酸素分圧を調整して反応させることを検討した結果、1%酸素99%アルゴンガス気流中、300℃でNa金属を加熱することにより、定比組成のNa_2O_2を合成することに成功した。アルカリ土類金属のBaについても同じ希釈酸素ガス気流雰囲気を利用して、180℃で加熱することにより定比組成のBaOを合成することができた。これらの原料を各遷移金属酸化物と反応させることによりオキソメタレート基を含む化合物の合成を試みた。 Na_2O_2:BaO:NiOのモル比が1/2:2:3となるように原料粉末を秤量し混合後、ペレット成形した。この原料粉末ペレットをNa_2O_2ペレットとともにステンレススチルチューブ内に封入し、600℃で30時間加熱することにより、NaBa_2Ni_3O_6の単一相多結晶体試料の合成に成功した。この化合物は[Ni_6O_<12>]の6員環オキソメタレート基を結晶構造中に有していることがX線粉末回折法より確認された。 今後、他の遷移金属酸化物においてもオキソメタレート基を有する化合物の合成を試みるとともに、単一相試料を作製することのできたNaBa_2Ni_3O_6の電気的・磁気的性質を評価する予定である。また、結晶構造解析により精密化された原子座標をもとに電子状態を計算し、オキソメタレート内の化学結合と物性との関係を考察する予定である。
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