研究概要 |
本研究では,我々が開発した組成および膜質の厳密な制御が可能なパルス制御低温プラズマMOCVD装置を主に用いて,薄膜と基板の間にバッファ相を形成することで,薄膜と基板との格子定数の違いと,成膜温度から使用温度への冷却過程での熱膨張の差による応力の制御を行っている. 平成14年度は,パルス制御低温プラズマMOCVD装置に加えて,低圧プラズマCVD成膜チャンバーに直接原料ガスを供給する原料供給系を試作した.この装置は原料気化部とパルス制御部をコンパクトに一体化したもので,原料毎に気化器を用意することで,必要な時にワンタッチで原料を供給することに成功した.試作機器なのでサイズは幅30cm×奥行き50cm×高さ30cmと比較的大きいが,各部品の小型化によってさらにコンパクトな汎用の気化器になる可能性を明らかにした. Nb添加SrTiO_3基板(Nb-STO),MgO基板上にパルス制御MOCVDおよびスパッターを用いてPT(PbTiO_3)-PZ(PbZrO_3)系固溶体,SRO(SrRuO_3)およびPtの等のバッファ層を導入した.これらのバッファ層を形成した基板上にパルス制御MOCVD装置を用いて,PZT(Pb(Zr,Ti)O_3)薄膜を形成した.薄膜の配向性,結晶完全性,残留応力等を,薄膜X線を用いて詳細に検討し,さらに電気特性の関係を明らかにした. 得られた薄膜の残留応力について詳細に検討した.PT, PZおよびPT-PZ固溶体バッファ層を形成したNb-ST基板上に成膜したPZTは,各構成体の結晶構造が同じで,それらの格子定数が非常に近いことから,成膜温度からの冷却時に発生する熱膨張係数のミスマッチによって残留応力の値が系統的に変化しバッファ層によって,残留応力値の制御が可能であることを明らかにした.さらに,SROおよびPt下部電極を形成したMgO基板上および、MgO基板上に直接形成したPZT薄膜の残留応力および電気特性の測定から,バッファ層および薄膜自身の厚さによる残留応力の変化を明らかにし,それによって,PZTの強誘電体特性を制御することが可能であることを明らかにした.
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