従来絶縁体基材への電気泳動堆積は不可能と考えられてきたが、申請者らは、電極上に多孔質の絶縁体基材を配置した場合、基材の細孔を通り外部に出てくる電場により基材の表面および内部に粒子の堆積が起ることを初めて見出し、この現象を応用し、多孔質基材中に生体活性物質を電気泳動堆積することにより、基材全体に生体活性を付与することが可能になると考えた。アルミナは高い生体親和性、耐腐食性、耐摩耗性を有する優れた生体材料であり、人工股関節や歯科用インプラントなどに用いられている。アルミナに生体活性を付与することができれば、生体材料としてのより広い応用が可能になる。一方、ウォラストナイトは、高い生体活性を有するが、焼結性が低く、緻密な焼結体を得るのが難しいため、生体材料として利用することがこれまで困難であった。両者を複合化することができれば、アルミナの優れた化学的、力学的性質とウォラストナイトの高い生体活性を併せ持つ、優れたインプラント材料を得ることができると考えられる。形成するアパタイト層と複合体の接着強度はインターロッキング効果により、高い値を示すことが期待される。陽極、陰極にいずれも金基板を用い、平均孔径10μm、気孔率40%の多孔質アルミナ基板を、陽極と陰極の中間に配置し、ヨウ素を添加したアセトン中にウォラストナイトを分散させ、電気泳動を行った。電気泳動後、基板を室温で乾燥したのち、擬似体液に36.5℃で7日あるいは14日間浸漬した。浸漬後、基板上にアパタイトが生成したことがX線回折測定により確認した。細孔内から基板表面に渡ってアパタイトが生成し、基板全体をアパタイトが覆っているのが走査型電子顕微鏡により観察された。インターロッキング効果により平均8.9MPaの高い接着強度が得られた。電気泳動堆積により、アルミナの優れた化学的、力学的性質とウォラストナイトの高い生体活性を併せ持つ生体活性複合材料が得られることが示された。
|