研究概要 |
今年度は,アルミニウム及び黄銅を試料として主として異周速圧延を行い,せん断ひずみの導入状況及び集合組織の発達過程を調査した.まず,1050アルミニウム板に,異速比2.0の2パス異周速圧延を行いせん断ひずみ分布およびせん断集合組織の形成過程を観察した.その結果,異速比1.4までは板厚中心付近でせん断ひずみの符号が逆転したが,1.6を超えると板厚方向全体にわたって一方向のせん断ひずみが導入された.せん断変形を導入した圧延板には,{001}<110>,{112}<110>,{111}<110>を主方位とする集合組織が発達した.別途行った,連続側方押出し法(コンシアリング)による実験では,板にせん断変形のみが生じ,圧縮ひずみは生じなかった.この場合も上記の3方位成分を主とする集合組織が発達したが,{111}<110>に最も強い集積が生じ,{001}<110>の強度は圧延変形にせん断変形が重畳する場合に比べて相対的に低くなった.このことから,せん断ひずみが導入されたことに伴う集合組織の形成は,同時に生ずる他のモードのひずみの影響を受けることがわかった. 積層欠陥エネルギーによる結晶の塑性変形挙動の差異がせん断集合組織の形成に及ぼす影響を明らかにするため,7:3黄銅を試料として異周速圧延を行った.300℃,無潤滑で圧延を行ったところ,異速比1.4を超えると板厚方向全体に一方向のせん断ひずみが導入された.黄銅ではアルミニウムとは異なり,圧延変形にせん断変形が重畳した場合も{111}<110>,{112}<110>を主成分とする変形集合組織が発達し,{001}<110>方位の集積度は低かった.今後の焼鈍によりこの方位がどれだけ保存されるかを見極める必要があるが,これまでの他の材料で見られたように変形集合組織の方位がそのまま再結晶集合組織に受け継がれるとすれば,この事実はFCC金属の集合組織制御に有力な情報を与えることになる.
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