温度勾配下にあるAgについて溶解度の温度依存性の差異により生じる平衡水素分圧、酸素分圧の値をすでに報告したデータを用いて推定した。中温部を1050℃、低温部1000℃、高温部1100℃としたとき、溶湯の内部の水素、酸素の濃度を均一とすると、低温部で体積比約6×10^<-5>酸素過剰の水蒸気が、高温部で2×10^<-4>水素過剰の水蒸気が平衡することになり、このガスを冷却することにより、低温部から酸素が、高温部から水素が回収できる可能性を示した。そこでこれを確認するため、三つの温度の溶融銀浴を設けてその底部を連結した分離装置を試作し、中温部にArに乗せた水蒸気を送り、高温部、低温部には純アルゴンを流し、各浴に安定化ジルコニアを電解質とした酸素濃淡電池型酸素センサー、Inドープのカルシウムジルコネートを電解質とした水素濃淡電池型水素センサーを浸漬し、それぞれの起電力から各浴の平衡酸素分圧、平衡水素分圧を測定した。その結果以下の結果が得られた。まず酸素分圧が理論的に予測された値よりも約100倍高い値となった。これは水蒸気を送るために用いたAr中に不純物として含まれる微量の酸素の影響であることが分かった。水素分圧は低温部で上昇、高温部で降下することが確認されたが、酸素に関しては明確ではなく、それらの絶対値はAr中の不純物酸素の影響を受け理論値とは大きく異なることが認められた。また、熱拡散により、水素、酸素とも高温部に拡散する傾向が認められた。以上の観察により本原理に基づく水素分離はその分離の程度が小さく不純物の影響を大きく受けることおよび熱拡散による効果などから、水素製造に適用することは難しいことが分かった。 予備実験として昨年度の二元系に引き続きCu-Ag-PdおよびCu-Ag-Ni三元系の水素の溶解度およびその温度依存性につい電気化学的測定法を用いて調べ新しいデータが得られた。
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