研究概要 |
酵素はアミノ酸をモノマーとする,分子量がときには数十万にもおよぶ高分子である.そのコンホメーションがある範囲で保持されるとその機能を果たす.そこで,荷電性ポリマーブラシ(長さが1μm程度あり,電荷密度を制御できる接ぎ木高分子鎖)に囲まれたフレキシブルな空間に酵素を包み込むことによって,酵素の無劣化空間を創りだすことが本研究の目的である.本年度は,多孔性膜へポリマーブラシを付与した後,荷電基を導入し,そこへ酵素を多層で集積させ,新規な酵素反応系へ適用した. まず,ポリエチレン製の多孔性膜(精密濾過用に市販されている中空糸状の膜)に電子線をあててラジカルをつくった.その後,膜をエポキシ基をもつビニルモノマー液に浸すことによって,ポリマーブラシを多孔性膜に付与した.つぎに,ポリマーブラシ中のエポキシ基を,ジエチルアミンおよび亜硫酸ナトリウムと反応させることによって,それぞれプラス,マイナスの電荷をもったポリマーブラシ(荷電性ポリマーブラシ)を作成した.静電反発によって伸長したポリマーブラシの長さを,膜に純水を透過させその抵抗から推算した.本年度は,オクタデシルアミノ基をもつ膜の内面から外面へ酵素溶液を透過させた.酵素として,卵黄リン脂質の主成分であるホスファチジルコリンのC2位の脂肪酸を遊離させリゾホスファチジルコリンに変換するホスフォリパーゼA2を用いた.膜の外面からの流出液中の酵素濃度を連続的に測定し,供給液中の酵素濃度との差から酵素の包み込み量を算出した.ホスフォリパーゼA2の多層集積度は3であった.薄層クロマトグラフィーの結果から,従来の固定化酵素に比べて明らかに高活性であることを実証した.
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