第2遷移金属複核錯体は種々の安定酸化状態をもち、また第1遷移金属錯体に比べて大きな軌道相互作用ならびに大きな零磁場分裂定数を持ち、それゆえ、磁性ならびに酸化状態の揺動に由来する伝導性など興味深い機能が期待される。本研究はルテニウムやロジウムなどの第2遷移金属錯体をハライドなどの連結子により連結して、混合酸化状態ユニットからなる従来知られてなかった新規骨格の一次元・二次元構造をもつ錯体を創出するとともに、これらの磁性、伝導性などの機能を評価することを目的とした。 (1)水溶液中においてdiruthenium tetraacetamidate cation radical(S=3/2)とフッ化物イオンからヨウ化物イオンまでの全ハライドのそれぞれとを反応させ、一連のハライドそれぞれにより連結されたルテニウム複核錯体の一次元鎖錯体を創りだした。幾何構造と磁性の解析から、ハライドからRu-Ru結合へのσ電子供与は、F<ClくBr<Iの順に大きくなり、πRuRu^*軌道とハライドとのπ型軌道混合は、F≧Cl>Br>Iの順に小さくなることが見出された。(2)ハライドイオンで連結された混合酸化状態のロジウム複核錯体高分子合成を目指し、水溶液中においてdirhodium tetraacetamidate、そのカチオンラジカルおよび食塩を反応させて、所期の混合酸化状態の高分子を得た。さらにその幾何構造は二次元ハニカム構造という珍しい骨格をもっていた。この高分子錯体において、ロジウム錯体の中性とカチオン状態はそれぞれの結晶サイトにピン止めされていて、結晶水の水素結合がピンの働きをしていることが示された。結晶から結晶水を脱離させると酸化状態のピン止めが外れ、その結果、結晶の伝道度の著しい上昇が起こった。
|