第2遷移金属複核錯体は種々の安定酸化状態をもち、また第1遷移金属錯体に比べて大きな軌道相互作用ならびに大きな零磁場分裂定数を持ち、それゆえ、磁性ならびに酸化状態の揺動に由来する伝導性など興味深い機能が期待される。本研究はルテニウムやロジウムなどの第2遷移金属錯体をハライドなどの連結子により連結して、混合酸化状態ユニットからなる従来知られてなかった新規骨格の一次元・二次元構造をもつ錯体を創出するとともに、これらの磁性、伝導性などの機能を評価することを目的とした。また、コバルト三核錯体カチオンラジカルの不対電子軌道の形を調べ、三核錯体を磁性体構築単位として利用する基礎データを得た。 Diruthenium tetraacetamidate cation radical(S=3/2)とフッ化物イオンからヨウ化物イオンまでの全ハライドとを反応させて得た一連のハライド架橋ルテニウム複核錯体一次元鎖錯体の幾何構造と磁性の詳細な解析を進め、ゼロ磁場分裂定数が46-53cm^<-1>であること、交換相互作用Jは直線鎖構造の塩化物錯体において最も大きく-9.4cm^<-1>、フッ化物錯体で-4.2cm^<-1>、他の錯体では1cm^<-1>以下と小さいことを示した。ハライドからRu-Ru結合へのσ電子供与は、F<Cl<Br<Iの順に大きくなり、この傾向はRh-Rhにおいて明白になることが示された。 あわせて、コバルト三核錯体における一電子酸化に関与する軌道の形を調べ、e"タイプの縮退したコバルト原子間π結合性の軌道であることを、酸化に伴う幾何構造変化ならびに密度汎関数理論計算等の相互比較により明らかにした。
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