本研究では、分子ナノワイヤーの設計と構築を目指して、以下のような研究を行った。 (1)3環式非古典チオフェンを構成ユニットに含むいくつかの導電性高分子について拡張ヒュッケル法に基づくバンド計算を行った。その結果、室温でも熱によって電子励起の起こる可能性のある導電性高分子を見いだすことができた。 (2)金(111)表面とチオレート分子からなる自己集積単分子膜に関して、チオレート分子の望ましい配向について軌道相互作用の観点から考察した。その結果、ホローサイトと呼ばれる対称性の高い位置への配位が最も望ましいことが分かった。 (3)単一分子からなる分子ワイヤーのコンダクタンスLandauerの理論を用いて調べ、コンダクタンスと分子軌道の間に興味深い関係を見いだすことに成功した。ここではナノグラファイトシートのコンダクタンスを計算した。フェルミ準位での透過確率の大きさを比べるとグラファイトシートへの接続の仕方によりそのコンダクタンスが大きく変動することが分かった。効果的な量子輸送は以下の二つの条件を満たしている場合に得られる。(I)MO係数がHOMOとLUMOにおいて大きい2原子を導線でつなぐ。(II)その2原子上のHOMO係数の積の符号がLUMO係数の積の符号と異なっている。 これらの結果をまとめた論文については既に発表済みである。
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