生体内では、らせん構造を有する複数の生体高分子が空間特異的に自己組織化し、超分子ナノ構造体を構築し、個々の分子にはない高度の機能を発揮している。これら生体系をモチーフとして、水中でナノスケールの分子モジュールを人工的に構築するためには、既存の共有結合の化学に加えて、非共有結合を利用する超分子化学的アプローチが必要不可欠である。申請者らは、分子のキラリティーに応答してらせんが誘起される極めてユニークな立体規則性ポリアセチレンの開発に成功している。さらに、光学活性体存在下誘起されたらせん構造が、光学不活性な化合物で置換後もそのらせんキラリティーを記憶として保持していることを発見した。本研究では、「高分子へのらせん誘起とその記憶」を基盤技術として用い、動的自己組織化の概念と組み合わせて用いることにより、さまざまの機能性有機化合物群や生体分子群を空間特異的にらせん状に配列した超分子ナノ複合体(モジュール)の構築を目指し、側鎖にカルボキシル基を有するポリフェニルイソシアニド(poly-1)を合成し、生成ポリマーへのらせん誘起と記憶、さらに機能性基の側鎖への導入について検討した。その結果、以下に示す興味深い成果を得た。 1.poly-1のナトリウム塩が水中で、光学活性アミン存在下、一方向巻きのらせん構造を形成し、主鎖領域に誘起円二色性を示すことを見い出した。さらに、このようにして誘起されたらせん構造が、光学活性アミンを完全に取り除いた後でも、らせん構造を記憶として極めて安定に保持することを発見した。 2.得られたらせん状poy-1の側鎖にエチレングリコール残基やグリシンオリゴマーを化学結合を介して導入したところ、らせん構造の安定性が飛躍的に向上することを見い出した。この発見は、以前ポリフェニルアセチレンで見い出されたらせん構造の記憶とは全く異なるものであり、今後、様々の機能性化合物群をらせん状に配列するための有用なモジュールとなりえることが明らかになった。
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