研究概要 |
有機カルボン酸モノコレステリルと鎖状アミンから成る錯体(錯塩型コンプレックス)を対象に、液晶ならびに液晶ガラス形成と構造緩和特性、および光学機能の付与に関して、以下の成果が得られた。 1.フタル酸モノコレステリル(CHP)と直鎖状モノアミン(C_n-amine、nは炭素数)から成る1:1型錯体について、液晶ガラスのエンタルピー緩和の鎖長依存性を明らかにすると共に、ステロイド基連結部をコハク酸エステルに変えた系との比較検討を行った。コハク酸モノコレステリル(CHS)は、単独系では等方性メルトからコレステリック液晶を経て結晶化しガラス化しないが、C_n-amineと錯形成すると、広い温度範囲でコレステリックタイプの液晶相を示し、且つ低温域で液晶ガラスとなった。CHS/C_n-amine錯体(n=16,18)の液晶ガラスのエンタルピー緩和を解析したところ、対応するCHPの錯体と比べて緩和時間分布が広がること、緩和時間と活性化エネルギーが増大すること、等が判明した。但し、前者の場合にあっても、汎用アモルファスガラスの緩和と対比して緩和モードの画一性はなおも高く緩和も速い。CHP/C_n-amineの液晶ガラスがスメクチックタイプであることから、分子凝集構造の秩序性の違いが緩和機構に大きな影響を及ぼすことが示唆された。 2.CHP、CHSの対成分アミンとして、新たに4-アミノメチル-4'-アルキルオキシアゾベンゼン(Azo-n、nはアルキルエーテル鎖の炭素数でn=4,8,12,16)を合成した。CHP/Azo-n錯体は、サーモトロピック液晶性を有するもののガラス化し難く低温への冷却によって結晶化した。一方、CHS/Azo-n錯体は低温域でも結晶化することなく安定な液晶ガラスを形成した。CHS/Azo-8の液晶試料に紫外光を局部照射すると、光照射部ではアゾベンゼンのtrans→cis異性化に伴って異方相→等方相の転移が生じることを見出した。さらに、その状態はT_g以下への冷却ガラス化によって凍結保持できること、および、液晶形成しうる高温域での熱処理によってアゾ基のcis→trans逆異性化が起こり試料全面で異方性が回復することが判明し、新たな情報記録媒体としての応用展開の可能性を例示しえた。
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