包括的な遺伝子の機能解析を可能にするための方法論として、個々の遺伝子に関するノックアウト系統を作出することが挙げられる。しかしながら、高等植物においては、動物において適用されている相同組換えを利用したノックアウト系統の作出は極めて少ない。また、重複した遺伝子のノックアウトを可能にする系の確立も望まれている。分子育種を推進する上で、ノックアウト系統の作出法の開発は重要な課題である。こうした観点から、本研究においては、プロモーター配列のメチル化による遺伝子の不活性化の分子機構を解明すること、ならびにその原理に基づいて任意の遺伝子のノックアウト系統を作成する手法を確立することを目的として研究を行った。プロモーターがメチル化されることによって遺伝子発現が変化することの分子機構を解析する系として、ペチュニアにおいてCaMV 35Sプロモーター制御下で発現するカルコーン合成酵素(CHS-A)遺伝子を導入したペチュニア系統を用いて研究を行った。この遺伝子の過剰発現によって、本来紫色に着色する花弁においてサイレンシング(コサプレッション)が誘導され、白色の花弁をつけるようになった系統、および、それに由来する紫色の花をつける復帰系統の比較を行なった。RT-PCR法およびrun-onアッセイによる解析から、復帰系統においては外来のCHS-A遺伝子の転写が抑制されていることを実験的に確認した。また、外来遺伝子のプロモーターのメチル化の状態をメチル化感受性制限酵素を利用した方法により解析したところ、復帰系統において高いレベルのシトシンのメチル化が検出された。さらに、プロモーターのメチル化とpost-transcriptional gene silencing (PTGS)との関連を調べる目的で、PTGSに特異的に検出されるsiRNA分子の検出法を確立し、それによる解析を行ったところ、CHS-A遺伝子のsiRNAはサイレンシングを起こしている系統においてのみ検出された。
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