果樹における幼若性、すなわち種子から数年にわたって花芽分化しない性質が、細胞分裂回数と関係するという仮説に基づいて、細胞分裂によって短くなると考えられるテロメア配列と幼若性との関連を調べた。本年度は、特に果樹の個体内の齢に沿ってテロメア配列の長さに変化があるか調べた。 材料としてはリンゴを用い、これまでに明らかになっている植物の一般的なテロメア配列TTTAGGGをもとに、リンゴゲノムDNAからテロメア配列をクローニングしてシークエンス解析を行った。この際ポリメラーゼ連鎖反応を改良することで、比較的容易にクローニングを行うことができた。その結果、リンゴのテロメア配列は一般的なTTTAGGGの繰り返し配列であることが明らかとなった。次に、リンゴの接ぎ木個体および実生個体の各部位の成葉からゲノムDNAを抽出し、4塩基認識制限酵素で完全に消化した後、クローニングしたテロメア配列をプローブとしてサザンブロット解析を行うことで、染色体末端のテロメア長を決定した。その結果、材料として用いた6年生のリンゴ'ふじ'と'ひめかみ'の接ぎ木個体では、細胞分裂回数において数年の開きがあると考えれられる部位間でも、テロメア長に差がなかった。さらに実生個体の幼若相と成熟相にある成葉におけるテロメア長を比較したところ、ほとんど差がなかった。従って、リンゴにはテロメア長を長年にわたって維持する機構が存在しており、テロメア長の低下が必ずしも幼若性と結びつかないことが示唆された。
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