果樹では幼若相の長さが数年になり、育種上の大きな障害となっている。果樹の実生を最適環境下で連続的に生育させる、あるいは実生の枝を接ぎ木するなどの、成長速度を高める処理によって開花期までの時間を短縮できることから、成長点における積算の細胞分裂回数が幼若相の決定要因ではないかと考えられている。一方、テロメアは染色体の末端部分の塩基配列のことであり、7塩基のくり返し配列からなっており、細胞分裂回数に従って短くなることが知られている。以上のように、果樹の幼若性は細胞分裂回数に関連しており、テロメアはその細胞分裂回数の指標となり得ることから、本研究を行った。 本年度の成果として、まずエージングとテロメア長の関係について精査した点を上げることができる。昨年度の成果に引き続きリンゴおよび同じバラ科樹木であるサクラにおいて、数年から数十年間におよぶ細胞分裂の積算数において差のある組織間でも、テロメア長に差異がなく、したがって幼若性とテロメア長との関連も考えられないことが明らかとなった。その過程で、非常に長期間、テロメア長が維持されており、この点がヒトなどと大きく異なることが示された。次に、このテロメア長の維持機構やテロメアによる染色体末端防御機構を明らかにするために、形質転換が比較的容易でモデル園芸作物として利用可能なトマトから、テロメア結合タンパク質を単離し、その性質を明らかにした。恐らくテロメアは、通常の加齢に加えて環境ストレスによっても影響を受け、植物の正常な発育に関与することが予想される。したがって、並行して行われた切り花の老化や根粒の硝酸態窒素による老化、あるいは環境ストレスによる糖代謝への影響など、園芸学上、重要な現象と、テロメアおよびテロメア結合タンパク質との関連が予想される。
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