果樹におけるABA生合成の制御機構を明らかにするために、ABA生合成の鍵酵素であるとされる9-cis-epoxycarotenoid dioxygenase(NCED)遺伝子の単離を行った。始めに、既に他の植物で報告されている本酵素のアミノ酸の保存配列より作製したプライマーを合成し、モモ果実、および日本ナシ花芽由来のcDNAを用いてRT-PCR法により本遺伝子を増幅した。増幅された遺伝子断片についてクローニングし、遺伝子配列を決定したところ、他の植物のNCED遺伝子と高い相同性があることが明らかになった。また、モモと日本ナシでは非常に高い相同性があることが示された。 これらの遺伝子断片を用いて、樹体と果実での発現を時間的、空間的に調べるため、RNAブロットハイブリダイゼーションにより、解析を行った。その結果、モモ果実では果実成熟の後期において特異的に本遺伝子が発現していることが示された。このことは、モモの果実成熟に伴って増加するとされる果実内のABA蓄積にNCED遺伝子が機能している可能性を示唆するものと考えられた。 一方、モモと日本ナシの花芽における発現を解析したところ、休眠前期で比較的強く発現していることが示唆された。 現在、これらの遺伝子のモモ、および日本ナシゲノムでの存在様式を、DNAブロットハイブリダイゼーションで解析中であり、また、水ストレスのNCED遺伝子発現への影響についても検討中である。
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