研究概要 |
本年度は、ABA生合成遺伝子の一つである9-cis-epoxycarotenoid dioxygenase (NCED)遣伝子について、モモゲノム中における存在様式を解析し、その果実成熟における機能について検討した。 まず、NCEDの保存アミノ酸配列の情報を基に作成したディジェネレートプライマーを用いて増幅した断片について調べたところ、NCED遣伝子と相同性の高い2つの遺伝子(NCED1,NCED2)がクローン化された。それらについてサザンハイブリダイゼーションを行った結果、他の植物で報告されているのと同様に、それぞれ数コピーからなるファミリーを形成していることが明らかになった。 さらに、果実成熟やABA生合成に関与しているかどうかを検討するため、モモ果実の発育段階における内生ABA量等について測定した。その結果、果実成熟が開始する満開後90日後よりABA量は急激に増加し始め、その後95日後にピークを迎え、成熟後期で再び下がった。NCED1遺伝子の発現はABA量の増加に先だってみられたことから、本遣伝子が果実成熟後期のABA生合成を制御していることが示唆された。さらに、NCED1遣伝子の発現が増加した時期は、糖度などの上昇など果実成熟が開始する時期と一致することから、NCED1遣伝子が果実成熟と関連する可能性が考えられる。一方、NCED2遣伝子は果実発育初期で最も高く、その後低く推移しており、NCED1遣伝子とは異なる機能をもつことが示唆された。以上のことから、モモ果実において、NCED1遺伝子の成熟時期特異的発現が明らかにされた。今後、果実成熟におけるNCED1遺伝子の機能を解明してゆくことで,果実成熟の制御機構を明らかにしてゆけるものと考えられる。
|