本年度も昨年度同様、単一柔細胞からの細胞液採取方法を確立することを主たる目的として実験を行った。まず、カキ果実でヘタ片除去処理によって果実肥大を抑制することによって、果実の単一柔細胞中で誘導される糖組成の変化を再調査した。その結果、昨年度の結果同様、単一柔細胞の細胞液中の糖組成が変化し、還元糖含量が有意に減少し、全糖含量に占めるショ糖の割合が増加していることを確認した。 さらに、本年度は様々の果実を用いて、それらの果実での単一細胞からの細胞液採取が可能であるかどうかを調査した。すなわち、ニホンナシ‘二十世紀'、リンゴ‘フジ'、モモ‘あかつき'および‘清水白桃'を収穫期に採取し、単一柔細胞からの細胞液の採取し、その糖含量を顕微鏡での酵素反応を用いた蛍光分析により、また、その浸透圧をピコリッターオズモメーターにより測定することを試みた。その結果、それぞれの樹種において細胞液の採取が可能であり、また、その糖含量および浸透圧を測定することが可能であることが明らかとなった。さらに、ニホンナシ‘二十世紀'とリンゴ‘フジ'から採取した細胞液については、その無機成分をSEMに装着したX線分析装置を用いることで測定することを試み、細胞液中のカリウム含量の測定が可能であることが明らかとなった。 以上、マイクロマニピュレーターを用いた単一柔細胞からの細胞液採取およびその糖含量、浸透圧、無機成分などの分析は様々な樹種において可能であることが明らかとなったが、当初目的とした、単一柔細胞から採取した細胞液を用いてのmRNA分析による遺伝子発現の解析については非常に困難であり、発表出来るだけのデータを得ることが出来なかった。ただ、これまで本研究で得られた単一柔細胞から採取した細胞液の糖分析等のデータに関しては現在学会誌への投稿を準備中である。
|