近年、近赤外分光分析は、廃棄プラスチックの組成識別や果実糖度の測定など、幅広い分野に利用されつつある。しかし、細胞レベルの現象への応用は殆ど皆無であった。本研究は、細胞内シグナル伝達の基本であるタンパク質のリン酸化・脱リン酸化反応の解析に、近赤外分光分析法を利用しようとするものである。 現在までに、ERKをリン酸化タンパク質のモデルとして、in vitroレベルで以下の実験を行っている。まず、ERKとGSTの融合タンパク、活性化型MEKとGSTの融合タンパクを調製し、これら融合タンパクを用い、in vitroレベルで、不活性型ERKと活性化型ERKに関してそれぞれ近赤外域でのスキャニングを行った。1次データを2次微分変換したところ、複数の波長領域で両者の間に異なるスペクトルが存在し、これを主成分分析した結果、活性型と不活性型の相違を反映するという結果が得られた。従って、少なくとも、in vitroレベルでかつ標的分子が純品の場合においては、近赤外分光分析によるタンパクのリン酸化の検出が可能と考えられた。現在、COS7細胞とERKを過剰発現したCOS7細胞の抽出液に活性化型MEKを反応させる系で、ERKのリン酸化が近赤外分光分析で検出可能か否か検討中である。
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