研究概要 |
ポリ-γ-グルタミン酸(PGA)は多機能性バイオポリマーであり、種々の応用が期待されている。今回は、特に好塩古細菌Natrialba aegyptiacaに注目し、本菌が生産するPGA類似の新規酸性ポリアミノ酸の均一精製法の確立、化学的分解法及び修飾法を適用した構造解析、本ポリマーを利用した高吸水性ゲルの作製法の確立及び新たなPGA生合成経路の同定と全容解明を目指し、研究を進めた。 本古細菌は培養初期にL-グルタミン酸(L-Glu)のみからなるPGA(L-PGA)を作った。さらに、培養の長期化に伴い、その一部がL-アスパラギン酸(L-Asp)で修飾されていた。この修飾型ポリマーを便宜上ハロフィリシンと名付けた。両ポリマーはこれまで共存状態でしか調製できなかったが、強塩基性担体の陰イオン交換クロマトグラフィーにより、はじめて分離に成功した。また、アミノ基修飾剤FDNBによる化学修飾法を適用し、両者が1,000kDaを超える超高分子物質であることを証明した。希塩酸及び透析操作によりハロフィリシンの部分解裂ペプチドを作製し、これがL-PGAのカルボキシル側鎖にL-Aspがアミド重合した新規な物質であることを立証した。さらに、L-PGAあるいはハロフィリシンと塩基性アミノ酸のリジンをアミド重合させ、自重量の2,000倍を超える高吸水性ゲルの作製に成功した。これにより、有用性の高いアミノ酸系の生分解性高分子素材の作製法が確立された。 既知のPGAの多くはD-Gluを主成分とするが、本ポリマーは完全なL型という点でユニークである。その合成機構解明の一環として、ここでは基質供給系について調査した。その結果、L-Glu合成酵素活性は特段に高かったが、既知のPGA生産菌に広く認められていたD-アミノ酸供給酵素は全く存在しなかった。PGAの立体化学性は基質レベルで制御されている可能性が高い。
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