研究概要 |
本研究では、キチン質加水分解酵素の触媒反応に必須な機能構造を、酵素の立体構造に基づく理論的pKa値の計算および部位特異的変異導入法によって明らかにすることを試みている。本研究の第一段階として、オオムギ種子由来のキチナーゼのX線結晶構造(2BAA)を基にして、すべての解離性アミノ酸残基のpKa値の推定を試みた。計算はJuufferらの方法によった。すなわち、境界要素法を用いた連続体近似によって溶媒効果を取り入れた静電ポテンシャルを計算し、得られた静電ポテンシャルの変化よりpKa値のシフト量を算出した。その後、解離性側鎖間の相互作用をモンテカルロ法によって推定し、最終的なpKa値を算出した。その結果、多くの解離性側鎖において、ほぼ正常なpKa値が得られたが、いくつかのアミノ酸残基、とりわけ、Arg114(>20.0)、Arg215(>20.0)、Glu203(-2.6)では、異常なpKa値が算出された。これらの異常なpKa値は、これらのアミノ酸残基の側鎖が他の側鎖と強い相互作用を行っていることを示すものであり、また、これらのアミノ酸残基の側鎖が触媒残基に近接して存在していることから、触媒反応にも関与していることが示唆された。 以上の結果に基づき、Arg114,Arg215,Glu203それぞれの残基の部位特異的変異導入を試みた。まず、部位特異的変異PCR法によって、Arg215がAlaに置換されたオオムギキチナーゼ遺伝子を得た。得られた変異遺伝子をEscherichia coli BL21(DE)pLysSに導入し、変異キチナーゼ遺伝子を発現させた。その結果、野生型および変異キチナーゼはともに封入体として発現されていることがわかった。その後、封入体として得られた野生型および変異キチナーゼを、巻き戻すことによってこれら二つのタンパク質を得ることができた。現在、それらのキチナーゼの活性や熱安定性を調べている段階である。
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