ベラ科性転換魚類キュウセンの配偶行動の性転換の検定法確立に必要な基礎データを得るために、7月から8月の間に瀬戸内海でサンプリングした個体群を角育し、行動饒察を行った。2匹の雌個体を1つの水槽(直径90cm、深さ50cm)で隔離飼育し、2週間硯察した結果、隔離飼育開始3日後には、一方の雌個体がもう一方の雌個体に対して、雄型の求愛行動を示した。典型的な雄型求愛行動のパターンとして、雄役個体が雌役個体を追尾する行動、雌役個体の目前で腹鰭を垂直に広げて体側誇示をする行動、雌役個体の上方を同調しながら泳ぐ行動が観察されたが、その後に続く、雄役個体が雌役個体の上方を位置しながら、2匹が水面に向かってダッシュし、同時に放卵する行動は観察されなかった。また、雄役個体は、自身の体長・全長とは無関係に、もう一方の個体より全長が1cm以上大きい場合に再現良く雄型行動を示した。逆に全長差がほとんどない場合には、2匹ともが雄型行動を示し、闘争・攻撃行動に発展する例が観察された。以上の結果を踏まえて、雄型行動誘導因子の検定法として、全長差が1cm以上になる2匹の雌個体ペアーを、上記条件で1週間隔離飼育した後に、小さい方の個体に試料を投与し、行動観察を行う方法を検討中である。一方、脳内雄型行動誘導因子の抽出材料として、上述の行動競察の結果、雄型行動が確認できた雌個体について、終脳から延髄に至る脳部分を解剖して集めた。また、他の脊推動物において配偶行動に関わることが既に知られているペブチドホルモン類が、ベラ科性転換魚類における雄型行動誘導因子の候補として考えられたので、これらペプチドホルモンのホモログ遺伝子をクローニングする目的で、抽出材料として集めたキュウセン脳の一部からRNAを抽出し、cDNAラィブラリーを作成した。
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