樹冠に落ちた降雨は樹体の一部である葉、枝条、樹幹を降下する過程で質的に変化し、樹幹流として根株周囲に流入する。研究者らは同一環境条件下に成育する120数種の樹木の根株土壌を採取し、その生物活性、化学的性質、雑草発生量を調査比較した。これら土壌のバイオアッセイの結果は、供試針葉樹の63%、広葉樹の22%ならびに単子葉樹の22%が成長抑制的な土壌を形成し、広葉樹の29%、針葉樹の18%、単子葉樹の33%の土壌が成長促進的であった。 また、根株下土壌のpHならびにEC値はそれぞれ3.6〜8.8および0.4〜47(dS/m)と樹種によって大きく異なった。このように同一環境条件下に成長してきたにもかかわらず、樹種によっては降雨の平均pH値より著しく低いあるいは高いpHの土壌を、またEC値についても降雨のそれと大きな違いが見られた。さらに樹木の同一種内あるいは属間には同じ傾向が認められた。このことは樹木が降雨や土壌のそれと無関係に樹幹流を通して化学的に土壌を変化させ、生理的に特徴のある土壌を発達させていることが認められる。 一方、根株土壌の埋土種子の発生は、供試針葉樹の75%の土壌が雑草の発生・成育を強く抑制し、発生の全く無いものもあった。また、広葉樹では55%の樹種の土壌が雑草の成育を抑制するが、25%の樹種において発生を促進し、その65%の樹種において著しい成長促進作用が見られた。 以上の結果は、樹木は独自に化学変化させた樹幹流によって樹幹基部土壌を生理的・化学的に特徴のある土壌を形成し、その長期間にわたる繰り返しは樹幹下に侵入する雑草あるいは成育する雑草に持続的かつ特異的に影響を及ぼしていることが示唆された。
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