樹木にとって、細胞壁リグニンの物理的意義を調べるために、遠心力によって過重力状態で試料苗を生育できる装置の創製とその生育方法の確立が、本課題の第一目標である。昨年度までに、遠心過重力生育装置を2機試作し、改良を施してきた。それは、回転による風圧や空気抵抗によって試料に余分な力が加わらないための風防の設置、光合成に必要な照明の試料軸方向真上への設置、である。この装置で実生苗を生育して細胞壁を調べると、重力の増加にともない細胞壁のリグニンは増加することが分かった。しかし、生育方法について、新たな問題点も明らかになった。実生苗は葉の重みなどによる自重分布の不均-のため、倒れてしまうことが高頻度で起こり、そのために姿勢回復の機能を持った特殊な細胞・あて材が形成されることで、細胞壁解析の障害となる可能性が高い。 本年度は、これを改善した。 1.実生苗でなく、直径1cm程度の幹や枝の分節の挿し木を用いることで、主軸方向を安定させて、倒れることによるあて材形成を抑えることができた。 2.文献調査から、試料としてイチョウ、キョウチクトウ、スギを試したが、実験から本装置ではスギが最も適していることが分かった。 以上の成果から、本課題の目標である「装置の創製と生育方法の確立」が達成できた。 この方法によって生育した細胞壁のリグニン解析を紫外線顕微分光光度計で行ったところ、4G辺りから急激にリグニン量が多くなる傾向があった。これは、前年度までは、実生苗の主軸の傾斜による影響で分からなかったことである。
|