研究概要 |
セルロース系試料を利用するにあたって重要な役割を果たす非結晶領域中の高次構造についての研究は、結晶領域と比較するとあまり進んでいない。これまでに研究代表者らが、重水素化赤外法と反応速度論的解析を組み合わせる手法を用いて,非結晶性フィルム中には少なくとも3種類の均一なドメインが存在することを明らかにしたが、これ以上の詳細な研究例は皆無といってよい。そこで、本年度は、気相法による重水素化と一般化二次元相関分光法を組み合わせる手法により、赤外スペクトル上にて各ドメイン中に含まれる水素結合の検出を試みることを目的とした。 今回,各ドメインのキャラクタリゼーションにあたり,重水素化されない1種類のドメインを除いた2種のドメインを解析対象とした。解析にあたっては重水素化を摂動とみなし,重水素化開始前および重水素化開始後周期時間にて測定した赤外スペクトルを用いて,これから得られる同時,異時相関スペクトル上に出現するバンドを検討した。その結果,同時相関スペクトル上では特定バンドの分離がみられなかった。このことは,上記2種のドメインが非結晶性のために,時間変化に伴うマクロな重水素化反応に有意な相違がなかったことを意味する。一方,時間変化に伴うミクロな変化を示す異時相関スペクトルからは,上記2種のドメインのうち、1つにおいては分子内水素結合に由来するバンドが3447〜3443cm^<-1>に,分子間水素結合に由来するバンドが3266〜3270cm^<-1>に検出され,もう一方においては、分子内水素結合に由来するバンドが3452〜3450cm^<-1>に,分子間水素結合に由来するバンドが3340〜3339cm^<-1>に検出された。さらに,得られた波数からそれぞれの水素結合に関与する水酸基の力の定数を求めたところ,前者中の水酸基の値が後者中の水酸基の値よりも小さく,前者中の水酸基の方が重水素化されやすい、すなわち反応しやすいことが明らかとなった。
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