既存の偏光フィルムはその多くが、ポリビニルアルコール(PVA)を素材とし、これにヨウ素や高二色性色素であるコンゴーレッド等を吸着させ、その膜を一軸方向に延伸して色素分子を配向させる方法により調製されている。平成15年度は、上記の調製法を採用し、実際にPVA-ヨウ素配向フィルムを調製して、これらと研究代表者独自手法により調製したネマティックオーダーセルロース(NOC)-ヨウ素配向フィルムの光学特性を、可視分光光度計を用いて比較、検討することを目的とした。 その結果、以下のことが明らかとなった。偏光フィルムの場合、まず、素材の可視光透過性(高透明性)が重要となる。そこで、着色前の延伸PVAフィルムとNOCフィルムの可視光透過率を測定し、比較したところ、NOCフィルムは延伸PVAフィルムとほぼ同程度の透過率を示し、この点においては、偏光フィルムの素材に適していることが判明した。次に、PVA-ヨウ素配向フィルムとNOC-ヨウ素配向フィルムの光学特性を検討した。PVA-ヨウ素配向フィルムは、PVAとヨウ素により呈色反応を示す。これは、ポリヨウ素イオンがPVAマトリックス中にて波長600nm付近を中心とする可視光領域に吸収をもつ錯体を形成するためと考えられ、この現象を利用して偏光フィルムとして使用されている。そこで、NOC-ヨウ素配向フィルムにおいては、ヨウ素の濃度を調節し、染色状態のコントロールを試みたが、呈色反応を示すには至らず、PVA-ヨウ素配向フィルムの可視光領域の吸収には及ばなかった。もともとPVA分子鎖は、天然高分子であるセルロース分子鎖をモデルとして合成された経緯があることから、NOC-ヨウ素配向フィルムは、PVA-ヨウ素配向フィルム程度の光学特性を示すことを期待されたが、以上のように、NOCフィルムの場合、ヨウ素による染色、配向は、適当であるとはいえないことがわかった。
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